●本ページは日本コンピュータ化学会学会誌ハイライト連載記事をHTML化して資料を追加したものです。なお,図の説明文は日本語にしてあります。*は発刊後の新規情報などです。
・第1回 Journal of Computer Chemistry, Japan, Vol. 9, No. 2, A6-A8 (2010) 〈J-STAGE版〉 → 本ページ内本文
・第2回 同, Vol. 9, No. 4, A13-A16 (2010) 〈J-STAGE版〉 → 本ページ内本文
・第3回 同, Vol. 9 ,No. 5, A18-A22 (2010) 〈J-STAGE版〉 → 本ページ内本文
・第4回 同, Vol. 10 ,No. 1, A2-A3 (2011) 〈J-STAGE版〉 ※Adobe Reader 9以上でご覧下さい(本ページ内本文は近日中に公開)。
補足資料(Twitter関連リンク集など)

◆ SCCJカフェ ◆
@ecochem


■SCCJカフェ(1): Twitterと科学コミュニケーション

1. Twitter事始め
 学会事務局から「SCCJカフェ」というタイトルで連載記事執筆のお勧めをいただき,サイエンスカフェなど数年来の科学コミュニケーション活動を4回にわたって書くことになった.ご配慮に感謝し,最初は
2009年秋季年会の懇親会でも話題にしたTwitter(ツイッター)を取り上げることにしたい.次回以降取り上げる話題でもTwitterが関係しているからである.なお,本連載の内容はWebページにも加筆掲載して関連リンク等を容易に参照できるようにしているのでご利用ください[1].
 ミニブログとも称されるTwitterは2006年にサービスが始まり,国内では2009年になって利用者が急増して新聞,テレビ,雑誌でも取り上げられたり活用の拡大が始まったりしている.
 本人が直接書いているかどうかはさて置き,オバマ大統領や鳩山首相も登場し,政治家,企業人,各界の著名人も参加して活況は増すばかりである.アメリカのNASA,FDA,NIH,CDCなどの公的機関も情報発信を行っており,国内では日本初のWebページを開設したKEKが2009年6月から,そして本学会では同9月からアカウント名(ID)@SCCJでツイート(つぶやき)を始めている.
 2010年2月に1日当たりのツイート数が5000万件を突破したとの発表があり,もちろんその大部分を支えているのは一般の人たちで,時々刻々地球上で起こっていることや日々の生活の様子などがリアルタイムで流され続けている.事件や事故などの情報もマスメディアより早く伝わることも再三で,人命救助に繋がった例も少なくない.そのデータ量と速報性は他の検索サイトからも注目され,2010年2月には英語版に遅れて日本でもGoogle最新検索にツイートが反映されるようになり,米Yahoo!との提携も開始された.
 大学や企業の研究者も多数参加しており,科学コミュニケーターの役割を果たしたり,「ついったー自然科学部」[2]など分野別のグループを立ち上げて交流を深めたりしている.また大学の講義などでもTwitterを活用する例が増えていることに注目したい.
 図1にTwitterの表示画面例を示した.[a]が書き込み欄で140字以内という制限が気軽に書き込める要因になっていて,その中でも多くの情報が盛り込めるように短縮URL作成サービスや“文法”があって独特の雰囲気を生み出している.解説サイトや関連書籍をご参照いただきたい.個々人のツイートはIDがわかれば誰でも読めるが,Twitter利用登録した上で読みたい相手をフォローすれば([b]に自分がフォローしている人数とフォローしてくれている人数.フォローするのはボタンで容易にでき,許可は不要),[c]のようにフォローした人の発言が時系列で表示され,これをタイムライン(TL)という.この図は通常のTLではなく,自分のID(筆者は@ecochem)を書き込んでくれているものだけを[d]をクリックすることで絞り込んだもので,自分宛てのメッセージなどを見落とさないためにチェックが欠かせない.なお,TL上で自分の発言の存在をアピールするためにアイコンのデザインは大切である.
 上述の短縮URL(利用登録すればクリック数も確認可能)のように無料の周辺ツールは充実しており,Twilogを使えば自分の全ツイートを保存して検索によりデータベースとして利用することもできる.画像を保存できるサイトも多数あり,Twitpicに置けば自動で記事が発信されてTwilogにサムネイルが表示される.Twitter全体の数日間の記事についてはbuzztterなどの検索ツールで探し出すことができ(時々のツイート数が多い話題もチェック可能),特定のテーマの記事を抽出してまとめておけるのがTogetterである.
 Twitterの“文法”で重要なのがハッシュタグで,日本コンピュータ化学会2010年春季年会のタグ#sccj2010のように"#"の後ろに適当な語(英数字が標準)をつけて作成すれば,そのタグを含んだ記事だけクリックにより抜き出すことができるのである.いろいろなイベントやキャンペーン,大学の講義など利用価値は極めて高い.
 アカデミックな活用という意味で紹介したいのが,2009年12月に東京大学安田講堂で開催された第1回ウェブ学会シンポジウム[3]である.基調講演3件と「ウェブとコラボレーション」,「ウェブと政治」,「ウェブと科学」の3セッションが設けられ,Twitterと連動したUstreamによるインターネット中継が行われて会場内外から多数のリアルタイム参加が実現された(アカウント@webgakkai,ハッシュタグ#webgakkai).質問もTwitter経由のみということで,筆者も会場で携帯から書き込むことができた.
 実況中継はUstream以外にもいろいろなツールが登場してスマートフォンでも手軽にできるようになり,大学開催のものを含めたイベントだけでなく日常茶飯事なものになりつつある.


図1 Twitter表示画面例 *1


2. 日々Twitterで何かが起きる
 私がツイートし始めたのは2009年9月21日で,参考にしているブロガーの多くが始めていたことなどが動機となった.その後も多くのブロガーやパソコン通信時代の知己も参加してきて日々にぎやかに話題を盛り上げている.Twitterで知り合った方々と上記ウェブ学会でお会いしたり,新潟で開催しているサイエンスカフェを見に県外から来ていただいたり(Ustream配信をしてくれた方も),新しい繋がりをつくり出す力も極めて大きい.
 フォローしている相手の専門分野や興味がわかるだけでなく,こちらが見落としていたニュースを書いてくれたり補足してくれるなど140字という中でいろいろなことができるものだと感心してしまう.“文法”として『RT @発言者名: 引用文』と書くのがリツイート(RT)で,これが繰り返されて重要情報や口コミが広がることは引用文中の短縮URLのクリック数でも確認できる.
 科学関連の話題で一般の方々も巻き込んで大きな盛り上がりになることもしばしばで,2009年のノーベル賞はノーベル財団自身が@Nobelprize_orgがタグ#nobel09および#nobelprizeで受賞者発表のアナウンスをし,世界中の関心を集めた.同年12月の世界エイズデーには,特定のキーワードやハッシュタグを含むツイートの文字色が赤く表示されるという企画があり,多くの人が書き込んだためにエイズデーの認知度が高まったことも印象に残る.
 そんな2009年の暮れに,何気なく「2009年の10大分子は?」とツイートしたところ,多くの方が面白いからTwitter上で決めようということになり,有志にいろいろなツールも駆使してもらって推薦・投票を行い,審査委員なども決めて2010年1月5日に審査を実施してエントリー25分子中から10分子を選ぶことができた.それをもとに複数のブログ記事も書かれて多くの方に分子に関心を持ってもらう好機となった.このような突発的な連携によるオンラインイベントも可能で,まだまだ楽しい使い方ができるのではないかと考えているところである.
 Webが登場してほぼ20年.膨大な量の情報が蓄積され続けていると同時に,ソーシャルメディアという語に象徴されるようにユーザーが積極的に参加する時代になった.研究者も自分の研究内容を紹介したり,タイムライン上で関係する話題に140字ならという気軽さで参加することはとても意味のあることだと感じている.
 変化が激しいインターネットの世界で,今話題のTwitterも数年後にはどうなっているかわからない.もし始めるとしたら今なのではないかと考えて本連載第1回に取り上げた面もある.是非多くの方にリアルタイムの場,タイムラインに加わっていただきたいと願っている.


図2 Twitterで選ばれた「2009年10大分子」をJmolで紹介する筆者ページ[4].冒頭に関連情報やブログエントリーへのリンクを掲載.


参考Webページ(一部は短縮URL)
[1] http://www.ecosci.jp/SCCJcafe/ ※参考書籍も掲載
[2] http://bit.ly/bxtK0A
[3] シンポジウムサイト: http://web-gakkai.org/ ,まとめWiki: http://bit.ly/7botBv
[4] http://www.ecosci.jp/topic/mol2009.html



■SCCJカフェ(2): サイエンスカフェによる科学コミュニケーション

1. 新潟にもサイエンスカフェを
 科学技術振興機構 (JST) が運営するSciencePortalのサイトの中に「サイエンスカフェ案内」 [1]というページがあり,毎月全国で開催されているサイエンスカフェの案内が掲載されている.2010年8月には82件 (前年同月は80件) リストアップされており活況を呈している.
 サイエンスカフェは1997年から翌年にかけてイギリスとフランスで始まり,日本では2004年に京都で開かれたのが最初とされている [2].講演会とは異なり,喫茶店やバーなどでゲストと少人数の参加者が1つのテーマについて飲み物を飲みながら語り合う場であり,科学を身近に感じてもらう意味で大きな役割を果たしている.科学・技術が社会に与える影響が極めて大きくなっている現在,専門家だけで決定できない事項も増えていることから,市民が科学の考え方から最新の研究まで理解しようという姿勢は重要なものとなっている.
 運営は大学などの研究機関,科学館・博物館,自治体,NPOなど多様であるが,学生など有志が個人やグループで開いている例も少なくない.
 筆者は2005年頃から各地でサイエンスカフェが開かれていることを耳にするようになり,新潟でも開催されないものかと期待していたところ,2007年3月,新潟駅に隣接したビルにジュンク堂書店新潟店が開店した.当日,本揃えを見に行って喫茶コーナーに寄り,「ここならサイエンスカフェができる」とその思いが高まり,店への交渉や協力者への依頼など準備を進めて2007年8月26日に,井山弘幸さん (新潟大学) をゲストに迎えて
第1回サイエンスカフェにいがた『ニセ科学の見分け方』を開催することができた.
 その後,ほぼ月に1回のペースで継続し,2010年8月28日には第40回『ねじが支える私たちのくらし』を門田和雄さん (東京工業大学附属科学技術高等学校) をゲストに迎えて催すことができた.以下ではその歩みを紹介したい.なお,文中でゲストの呼称は「さん」とし,所属はカフェ実施当時のものとした.

2. 「サイエンスカフェにいがた」の運営を通じて
 「サイエンスカフェにいがた」 (以下,当カフェ) は趣旨に賛同したスタッフにより運営されており,ゲストにもボランティアでの協力をお願いしている.ゲストやテーマはスタッフが協議して依頼し,時には他の機関等の協力や共催で開くこともある.
 2008年11月開催の第16回『トキ,こめ,田んぼ 〜水田の生き物がつなぐ朱鷺と人〜 』 (ゲストは新潟大学の大石麻美さんと武山智博さん,進行役のファシリテーターは東京工業大学の川本思心さん) は,東京工業大学と新潟大学の研究グループに運営をお願いして環境省のトキの島再生研究プロジェクトとの共催という形式になった.そのグループの報告書 [3]には当カフェについて,“メンバーは新潟の大学,学校の教職員や書店員などであるが,全員がボランティアであり,所属大学などは関係なく活動している”と特色が記されている.
 サイエンスカフェ開催で問題になるのが,ゲスト,会場,経費,広報と言われるが,会場についてはジュンク堂書店新潟店に無償で使わせてもらい,歴代2名の店長,理系書担当者,レジ担当者,喫茶コーナースタッフに,予約と当日の受付け,カフェで紹介する本の準備,会場設営まで協力していただいているメリットは大きい.参加費は特例を除いて喫茶コーナーの通常の飲み物代にしている.
 広報は地元紙や場合によってはテレビ局などにも告示や記事を依頼している.Webページ [4]も公開して過去の記録を紹介すると同時にメールでも予約を受付けている.前報 [5]で紹介したTwitterもアナウンスや当日の様子のリアルタイム報告 (Ustreamの動画配信を併用する場合もある) で活用しており当カフェ専用ハッシュタグ#ngtscも立ち上げている.他に全国のサイエンスカフェ共通のタグ#cafe_sciも設けられている.
 全国のカフェでは分野を限定したもの (バイオ,脳,医療,宇宙,気象など) [1]もあるが,幅広く扱うところも多い.当カフェも自然科学に限らず,社会問題などを取り上げることもある.一見科学と無関係に見えて底で繋がっている例もあれば,上述のように科学・技術と社会の関係を不可分と考える必要のある場合も多いからである.
 その意味で,山崎昶さん (元日本赤十字看護大学教授) による第15回『文学作品のなかの化学』(2008年10月)は象徴的なタイトルと言える.
 さらにサイエンスコミュニケーターという立場で自らもいろいろなイベント運営等の経験が豊富な内田麻理香さん (カソウケン主宰) と長神風二さん (東北大学) にお願いした2年連続の対談も魅力的なタイトルだった.第26回『オリュンポスの神々と本をめぐって 〜 科学夜話12題24色』 (2009年7月) と第37回『物語としてのチェス,科学のフォーメーション ─ 来し方の局面を彩った本をチェスになぞらえる,サイエンストーク』 (2010年6月,写真1に会場風景) である.会場が書店という条件を加味しつつ,科学を狭い枠に囚われないものとして参加者の眼前に展開してみせてくれた.紹介する本にはマンガや絵本も含まれ,平日夜の開催としてワインも飲み物に加えることによって独特な時間が醸し出された.
 内田さんの著書「科学との正しい付き合い方 疑うことからはじめよう」 [6]と長神さんの「予定不調和 サイエンスがひらく,もう一つの世界」 [7]にも科学コミュニケーションへの思いが詰め込まれているので紹介しておきたい.なお前者p.192〜では第26回カフェに込めた思いも詳しく語られている.


写真1 第37回カフェ(2010年6月25日)の会場写真.

 冒頭に全国でサイエンスカフェが開催されていると記したが,残念ながらまだその認知度は低い.科学コミュニケーション関連の書籍も増えておりその中でもサイエンスカフェに言及していることが多いが,試みにキーワード“サイエンスカフェ”で書籍検索すると,2010年9月1日現在でGoogleでは20冊,Amazonでは24冊であった.
 科学史家・科学哲学者の村上陽一郎さんによる「人間にとって科学とは何か」 [8]のp.180『科学教育の必要』の中でも,“科学の研究から生まれてくる成果を,産業や行政が利用することによって,まったく科学とは無関係な一般の人々にもその研究成果が良かれ悪しかれ,かなり大きな影響を与えるようになりました”とした後で,「サイエンス・カフェ」や「コンセンサス会議」についても触れ,"一般市民に科学リテラシーが必要になってきているのです"と述べている.
 科学コミュニケーションに対する考え方も様々であるが,そのことを知ってもらう意味でもサイエンスカフェを回を重ねて開くことは今という時代に置いて極めて重要と考えている.
 その視点から当カフェのタイトル例を列挙すれば,以下のようになる.なお2010年4月からは必要に応じて新潟県立自然科学館とも連携し (下記第35回が例),地域全体としての盛り上がりを今後の課題としている.

 第2回『人はなぜ,水を飲み,物を食べ,息をするのか』 (元 信州大学教授・勝木渥さん)
 第6回『雪と氷の不思議な魅力』 (防災科学技術研究所・佐藤篤司さん)
 第9回『炭素という奇跡 〜有機化合物の織りなす身近で不思議な世界〜』 (有機化学美術館・佐藤健太郎さん)
 第12回『ニセ科学を見破る!』 (法政大学・左巻健男さん)
 第17回『高福祉社会を支える電子情報支援工学 (e-AT)』 (新潟大学・林 豊彦さん)
 第24回『テクノロジーが拓く野生動物の行動研究と共存への道』 (長岡技術科学大学・山本麻希さん)
 第27回『人類月着陸40年』 (会津大学・寺薗淳也さん)
 第29回『南極昭和基地での野菜栽培とCO2』 (環境経営ホールディングス・古島 健さん)
 第30回『化学物質と新潟水俣病』 (新潟大学・野中昌法さん)
 第32回『ゲームで学ぶ・・・感染症対策』 (順天堂大学・堀口逸子さん)
 第34回『メダカを通して性を考える』 (新潟大学・濱口 哲さん)
 第35回『越後平野の歴史と残された湿地の記憶』 (新潟大学名誉教授・大熊 孝さん)

 この中で第9回の佐藤さん (現在は東京大学) は化学をテーマにした著名なWebページが本になって多くのイベントやテレビのゲスト出演でも活躍しており,本連載で次回執筆予定のサイエンスアゴラという科学イベント (2006年立ち上げの中心的役割を果たしたのがJST在籍中だった長神さんである) の分子企画でも協力していただいた.2010年発刊の「医薬品クライシス」 [9]が2010年度の科学ジャーナリスト賞を受賞し,科学コミュニケーションと科学ジャーナリズム [10]は深い関係にあることから考えて喜ばしく思っている.
 ボランティアで引き受けてくれるゲストを依頼するに当たっては,本学会の歴史とも関係のある化学PC研究会でも重視されたパソコン通信時代から,インターネット誕生以降の情報発信者の助け合いを含め,築かれてきた人的ネットワークが大きな力の1つになっている.
 研究者の情報発信,ネットワークという点では,国立情報学研究所 (NII) が運営しているReseachmap [11]という自己登録制の研究人材双方向コミュニケーションサービスがあり,研究業績や研究キーワード等の掲載だけでなくイベント告知などもできるようになっている.本学会会員にも多数登録してアピールしていただきたいと願っている.
 第2回東京国際科学フェスティバルTISF (2010年10月9-10日・パナソニックセンター東京;9月11日-10月10日に各地で拡大開催) [12]およびサイエンスアゴラ 2010 (2010年11月19-21日・国際研究交流大学村;2009年は筆者がサイエンスカフェポスター展運営を担当) [13]でもサイエンスカフェ関連企画が多数開催予定で,全国規模で交流が深まると思われる.
 最後に科学コミュニケーション関連の学会・雑誌を紹介しておこう.関係学会の中で私が入会しているのが,科学技術社会論学会 [14]であり,学会誌第5号が『サイエンス・コミュニケーション』である.また,北海道大学では「科学技術コミュニケーション」 [15]というオンライン雑誌を発行しており,本学会論文誌同様に興味深い記事を無料で全文読むことができる.
 研究者と市民との接点が増えていくことを期待して止まない.

 本記事は前回同様Webに転載予定である [16].

参考文献およびWebページ(一部は短縮URL)
 [1] http://scienceportal.jp/scicafe/
 [2] たとえば,小林傳司,「トランス・サイエンスの時代」,p. 27,NTT出版 (2007)
 [3] 西條美紀 (研究代表者) ,『東京工業大学科学技術リテラシープロジェクト研究報告書』,2010年3月
 [4] http://www.ecosci.jp/n-cafe/
 [5] 本間 善夫, Journal of Computer Chemistry, Japan, 9, A6 (2010). 9doi:10.2477/jccj.H2205
 [6] 内田麻理香,「科学との正しい付き合い方 疑うことからはじめよう」,DIS+COVERサイエンス (2010)
 [7] 長神風二,「予定不調和 サイエンスがひらく,もう一つの世界」,DIS+COVERサイエンス (2010)
 [8] 村上陽一郎,「人間にとって科学とは何か」,新潮選書 (2010)
 [9] 佐藤健太郎,「医薬品クライシス ─78兆円市場の激震」,新潮新書 (2010)
[10] たとえば,小林宏一・谷川建司・瀬川至朗 編,「ジャーナリズムは科学技術とどう向き合うか」,東京電機大学出版局 (2009)
[11] http://researchmap.jp/
[12] http://tokyo.sci-fest.net/2010/ja/index.php
[13] http://www.scienceagora.org/
[14] http://jssts.org/ *2
[15] http://costep.hucc.hokudai.ac.jp/jjsc/
[16] http://www.ecosci.jp/SCCJcafe/



■SCCJカフェ(3): サイエンスアゴラと科学コミュニケーション

1.サイエンスアゴラの誕生と第1回への参加
 こども達や市民が学校以外の場で理科や科学に接する機会として,科学書籍やテレビの科学番組 [1],科学館・博物館,大学の公開講座や実験教室,そして地域で開かれる科学フェスティバル [2]などがある.規模の大きな科学イベントとしては2006年から国際研究交流大学村 (東京・お台場) で開催されているサイエンスアゴラがある.前回 [3]書いたように,第26回および第37回サイエンスカフェにいがたのゲストをお願いした長神風二さん (現・東北大学) がその創設・企画運営に尽力された.
 第1回のサイエンスアゴラ2006 (11月25日〜27日) のテーマは「科学と社会をつなぐ広場をつくる」であり,まだ知名度が高くなかったこともあり事務局とプログラム委員が科学コミュニケーションに携わる機関や個人に積極的に連絡をし,その中で筆者にも情報が届き化学教育に関係するWebサイト [4]を運営している立場で実演コーナーとポスター展示に参加した.
 実演は「サイエンスコミュニケーションのさまざまな試み」の中の1企画として参加したもので,『塗り絵で学ぶ分子の不思議』と題して東京国際交流館で行った.当日はノートパソコン,プロジェクタ,自作ダンボール製スクリーンほか必要な器材とポスターをかついで上京し,まさに大道芸であった.親子連れやご夫婦での参加もあって,思いがけぬ質問に分子に対するイメージの違いを知ることもできた.
 来場者がたまたま通りがかってどのようなテーマに出会うかわからない場合もある科学イベントという「場」に出展することは,科学を身近にしていく上で大切な活動と考えるものである.また,他企画から科学コミュニケーションの手法や考え方を学ぶことができ,情報交換など交流が広がるのも魅力と言える.
 サイエンスアゴラについては公式サイト [5]にこれまでの報告書が掲載されているほか,2006年については長神さんが主催者側として詳細な実施総括 [6]を出されている.
 ここではその後本年まで5年連続してお台場に通い続けた一参加者の立場で,記録を書き留めたい.

2.サイエンスアゴラのための「分子計算と視覚化研究会」結成
 科学コミュニケーションに携わる方々とお話しする中で,宇宙・恐竜・生物などのテーマは人気があるが,分子の人気は高くないとの見解が出されることがある.最近は脳や素粒子など目に見えない分野のテーマもサイエンスカフェなどで取り上げられるようになっており,分子についてももっとアピールしたいところである.
 104企画が実施され,"サイエンスコミュニケーションに関する日本初の大規模なイベント" [6]として成功したサイエンスアゴラ2006に参加した経験から,是非継続して出展したいと考え,公募制となった2007年からはインターネット上で化学関連のサイトを運営されている方やヴィジュアルな研究をされている方に協力をお願いし,有志グループ「分子計算と視覚化研究会」を結成して応募することとなった.2009年まで異なったメンバー・内容で応募して採択されて開催することができた.2010年は都合により会としては協力という形で,メンバーの一人をゲストとしてサイエンスカフェを催したので,以下で順次紹介させていただく.なお登壇者 (一部で敬称略) の肩書きは注記がなければ当時のものである.

2.1 2007年『分子が見える! 分子で魅せる!』
 2007年に本学会会員を含めインターネット上で活動されている方々を誘ってメンバーに加わっていただき,メーリングリストを立ち上げてサイエンスアゴラ (同年のテーマは「みんなでつなごう 未来のスイッチ」) に向けて打ち合わせを進めて当日実施する態勢ができ上がった.
 2007年11月25日,東京国際交流館における企画『分子が見える! 分子で魅せる!』 [7]のプログラムと登壇者は次の通りである.
 ・原子軌道や分子のかたちをクリスタルアートに
   時田澄男 (埼玉大学名誉教授),長尾輝夫 (函館工業高等専門学校)
 ・分子のかたちをコンピュータで計算しよう
   千田範夫 (テンキューブ研究所),佐々木渉 (Webサイト「pc-chem.info」)
 ・折り紙と塗り絵で分子の美しさに迫ろう
   佐藤健太郎 (Webサイト「有機化学美術館」),本間善夫 (Webサイト「生活環境化学の部屋」)
 ・ディスカッションと交流 (全員)
 幅広い年齢の方々で会場は満員となり,時田さんと長尾さんのクリスタル彫刻展示や佐藤さんのフラーレン等折り紙作品回覧もあり,それぞれのトークの中で笑い声も上がって大成功であった.サイエンスアゴラ2007実行委員長の永山國昭さんが視察の中で会場を覗かれ,サイエンスアゴラのために結成した草の根グループとの説明に感激してくださったのもうれしい経験となった.

2.2 2008年『分子の世界をアートとエコロジーから見る』
サイエンスアゴラ2008のテーマは「地球の未来 日本からの提案」で,研究会のタイトルもそれを意識したものにした.前回と同じ東京国際交流館で2008年11月23日開催 [8].
 ・ニュースの中の化学物質 (佐藤)
 ・有機概念図簡易計算機で知る分子の秘密 (本間)
 ・分子のかたちはサイエンス? アート?
   小俣友輝 (北海道大学)
 ・パソコンでできる分子の計算 (千田)
 ・ガラスに閉じ込めた分子のかたちの原点 (時田)
 ・ディスカッションと交流 (全員)
 このうち小俣さんは,北海道大学総合博物館2008年夏の企画展示「分子のかたち展-サイエンス × アート」 [9]を企画・運営され,研究会の川端 潤さん (北海道大学)や私もワークショップ等に協力した経緯から,サイエンスアゴラへの登壇を依頼したものである.

2.3 2009年『模型とモデルで知る未来を拓く分子の世界』
 「みんなでつなごう 未来のスイッチII」をテーマとするサイエンスアゴラ2009では会場が産業技術総合研究所臨海副都心センターに変更となり,10月31日に開催した [10].
 ・概要説明 (本間)
 ・パソコンでできる分子モデリング (千田)
 ・モル・タロウ入門
   高松尚久(株式会社タロウ)
 ・分子設計事始 (佐々木)
 ・モル・タロウ組立て,各自デモおよび交流
 人気の高い分子模型モル・タロウ [11]の開発者である高松さんに参加をお願いし,参加者全員へのミニキット配布と作品展示が実現した (写真1に会場風景).美麗な模型にするために原料プラスチックの選択にも苦労されたという秘話など,スタッフも興味深く聴くことができた.
 また,製薬会社で創薬に携わっている佐々木さんの「分子設計事始 新薬創出を疑似体験」は極めて意欲的な試みで好評だった.
 以上,「分子計算と視覚化研究会」の3回の出展においては,本学会会員の時田さん,長尾さん,千田さんにも大変なご尽力をいただいた次第である.その内容については本学会の論文や年会要旨集を是非ご参照いただきたい.


写真1 高松さんによるモル・タロウの解説と展示(サイエンスアゴラ2009,2009年10月31日).

2.4 2010年 サイエンスカフェ『ノーベル化学賞・クロスカップリングは何がすごいのか?』
 前述のように2010年は研究会としての応募はしなかったが,筆者がサイエンスアゴラのサイエンスカフェ関連企画にも数回関わってきたことから,各地のカフェ連携企画「体験しよう!話し合おう!サイエンスカフェ」 [12]に新潟から参加することになり,ゲストとして会員でもある佐藤健太郎さんにお願いした [13].奇しくも2010年ノーベル化学賞受賞者3人のうち2人が日本人ということで国内でも有機化学への関心が高まったが,佐藤さんは事前にクロスカップリング反応がノーベル化学賞の候補になり得るという記事 [14]などを書かれていたこともあって,時機を得たテーマでのカフェとなった.さらに,同時間開催のサイエンスアゴラ閉幕セッションの最後に受賞者の根岸英一先生が急遽登壇することになり,カフェ終了後にそちらへ参加できるよう事務局に会場変更という手配をしていただいた.
 会期中晴天に恵まれたサイエンスアゴラ2010は来場者数も多く,同カフェも高校生からご高齢の方まで55名という参加を得て佐藤さんのお話を堪能し,活発な質疑応答もなされた (写真2).化学書出版社2社からノーベル化学賞の記事が掲載された雑誌等をプレゼント用に寄付していただき,トーク中のクイズの正解者などに進呈することもできた.
 終了後はゲスト・参加者がそろって満員の会場に移動し,根岸先生のご講演を聴かせていただいた.まさに記念すべきノーベル化学賞デーとなった訳である [15].
 政府による仕分けなどにより,市民の科学に対する見方が変質してきている部分もある.そのような時代に科学に関係する場にいる人たちが何をなすべきなのか,そのヒントはすでに,サイエンスアゴラのような「場」が"恒常的なものに発展することが望ましい"とする長神さんのサイエンス2006実施総括 [6]や,科学コミュニケーション研究の文献 [16]に見出すことができると考える.
 サイエンスカフェ同様,多くの方に支えられて5年続けてサイエンスアゴラという「場」に参加できたことはとても恵まれていたと感謝している.イベントではその後の「継続性」が重要と考えている立場からも,それは意味のあることだと思う.すでにサイエンスアゴラ2011は2011年11月18日〜20日開催とアナウンスされた [5].また新しい出会いに遭遇することを願っている.


写真2 クロスカップリングについて話す佐藤さん(サイエンスアゴラ2010,2010年11月21日).

 本記事は前回までと同様Webに転載予定である [17].

参考文献およびWebページ
 [1] たとえば,NHK「サイエンスZERO」
 [2] たとえば,はこだて国際科学祭(2009年~),http://www.sciencefestival.jp/
 [3] 本間 善夫, Journal of Computer Chemistry, Japan, 9, A13 (2010). doi:10.2477/jccj.H2215
 [4] 生活環境化学の部屋,http://www.ecosci.jp/
 [5] サイエンスアゴラ,http://www.scienceagora.org/
 [6] 長神風二,科学技術コミュニケーション, (1), 14 (2007), http://hdl.handle.net/2115/18939
 [7] http://www.ecosci.jp/sa07/
 [8] http://www.ecosci.jp/sa08/
 [9] http://museum-sv.museum.hokudai.ac.jp/exhibition/08sum/pkwk/index.php
[10] http://www.ecosci.jp/sa09/
[11] http://www.talous-world.com/
[12] http://cafesci-agora2010.seesaa.net/
[13] http://www.ecosci.jp/n-cafe/yokoku43.html
[14] 佐藤健太郎,現代化学 2010年6月号,p. 16
[15] Togetterまとめ,http://togetter.com/li/71413
[16] たとえば,平川秀幸,「科学は誰にものか 社会の側から問い直す」,NHK出版 生活人白書(2010)
[17] http://www.ecosci.jp/SCCJcafe/

Photo 1. Science Agora 2009 (October 25, 2009).
Photo 2. Science Agora 2010 (November 21, 2010).


【補足資料】



執筆者サイト:生活環境化学の部屋