県立新潟女子短期大学生活科学科●共同研究報告書
− 生活環境データベース研究報告 −

第1号/1994.3.31 【抜粋;本間執筆分】


1. 研究開始に当たって
1.1. はじめに

 平成5年度より、県立新潟女子短期大学では共同研究事業が新たに開始され、初年度にスタートすることになった2件の研究のうちの1件として、生活科学科の「生活環境データベース構築」が採択され、作業を開始した。共同研究事業は、新潟県民にアピールできる成果を上げるべく、県立新潟女子短期大学の複数の研究者が協力して実施するもので、従来に無い試みである。これは公立機関として重要な試みと考え、ここにその計画を紹介し、本データベースに対する意見を広く募ると同時に、データベース完成後の積極的な利用を呼びかけるものである。
 最初に本テーマを取り上げた背景と現段階での素案を本報告書で説明し、関係機関の理解を得たいと考える。

1.2. 研究開始の経緯と目的
 社会の情報化が一段と加速される中、個人が扱う情報の種類と量は飛躍的に増大する一方、本当に必要な情報はなかなか入手できないという面もある。これは多くの情報が散逸状態にあることが主因であり、例えばコンピュータの普及率が上がってもそれぞれの機器が分断されていては溢れる情報が有効に流れないことが問題と考えられる。国立大学や各研究機関などで情報ネットワークが整備され、また個人レベルでもパソコン通信が普及するなど、情報の流れは着実によくなってはいるが、その恩恵に浴せない部分もまだまだ多い。
 われわれはそのような状況を鑑み、特にこれからの情報化時代を担う子供たちのいる学校や、情報の有効な活用を迫られている県内の関係機関に対し、県立新潟女子短期大学生活科学科としてできる情報サービスはないものかと考え、本研究の開始を思い立った。
 本生活科学科は、生活科学専攻(研究者数6)、食物栄養専攻(同9)、生活福祉専攻(同8)の3専攻により構成されている。生活科学という極めて広範な分野を扱う学科として、参画者それぞれの専門領域の情報(自作データまたは外部からの提供データ)を持ち寄って電子情報化し、上記機関に提供して利用して戴こうという試みである。従って、「生活環境データベース」という名称ながら、盛られるデータの内容は本学科が扱っている分野に限定されるが、以下の2点を中心テーマに据え、新潟県民により広く利用してもらえるような情報集積を推進する予定である。

  1. 「生活」の中での情報の意味・役割を考え、身近で有益なデータを収集する。
  2. 「新潟県」を客観的に捉えることのできる情報・データを提供する。
 国内外で数多くのデータベースが構築されて積極的に利用されているが、以上の目的に沿ってそれら既存のデータも入手し、著作者の了解を得て転載または所在情報の提供をすることでデータ量の確保に努めたい。電子媒体に載った情報は活字情報と異なって、加工や視覚化、検索などが可能で、より有効な利用が期待される。

1.3. 研究計画の概要と方法
 本共同研究は平成5年度から6年度までの2年間でデータ集積等を行ない、2年度目中以降にデータ提供を開始することを目標としている。利用度に応じ長期的なデータ追加・補正等を継続していく予定である。
 研究初年度は、共同研究用のパーソナルコンピュータと関連ソフトウェアの導入を行ない、パソコン通信を開始して外部データの入手を始めると同時に、通信の持つ様々な可能性を探ってデータベース構築・運営の方策を研究している段階である。さらに、共同研究を推進する委員会を設置して研究の具体的手法等について議論を重ねる一方、参画者一同が前節で述べた目的に沿って広範なデータ採取・入力を行なっている。
 スタッフの専門領域を勘案し、網羅が可能なデータ内容のアウトラインとしては以下のようになると考えている。
(1) 自然科学的・感性的な情報
 『生活』を考える上で考慮すべき物質(人体、衣服、食品、建築材料、薬品、環境汚染物質など)とエネルギー(代謝、衣住環境評価など)に関するデータの収集またはその所在場所の確認を行なって、利用できるようにする。例えば新潟県内の水質や気候等に関するデータを入手して参照できるようにするほか、関連する文献情報も扱う。
 さらに豊かで快適な生活環境という視点からも、データ収集を計画している。
 これらの情報は主に中学校・高等学校など教育機関等に提供して活用してもらい、生活環境を正しく理解してもらう上で重要な役割を果たすものと考える。
(2) 社会的な情報
 県内の福祉情報・保育情報等、新潟県の『暮らし』を考える上で必要とされる情報を蓄積し、利用者の利便を図るようにする。この分野ではすでにパソコン通信上に福祉ネットが多数開設されて活発に活動しているので、それらとも情報交換して充実させていく。
(3) その他
 参画者の専門分野で可能なものについて、順次データベース化を促進。

 以上のような極めて広範なデータを、利用しやすいような分類法で整理し、フロッピーディスク送付によるデータ提供を行なうほか、可能であればパソコン通信の利用も検討している。
 利用者の使用機器(ハードウェア環境)の問題や、データ形式(ソフトウェア環境)の統一の問題など研究の必要な点も多いが、本学の有するハードウェア環境を活用して少しでも多くの利用を可能にしたいと考えている。また、本報告書のような冊子も年度毎に発行して研究成果の広報に努めたい。

2. データーベースを考える   − 初年度共同研究推進委員のメッセージ −

 データベースという言葉は極めて広い意味を持っており、本研究においてもディスカッションを重ねて各人のイメージの統一を図る営みを続けている。今後の研究推進に当たり、今までの議論を踏まえた上での意気込みを初年度の委員全員に認めてもらったので、以下に掲載する。
 情報論から、コラム、データベースの具体的な内容まで、筆法は様々であるが、生活環境データベースが網羅しようといる領域についてのイメージ作りの一助になると考えている。


【中略】


生活環境化学分野のデータについて
          生活科学専攻  本間 善夫

 環境問題が社会的にクローズアップされている。極めて多くの問題が複合的に絡み合っており、子どもたちに豊かな環境を残すことが至難な時代になってしまった。多様な視点から見た処方箋も提示されている中で、生活者個々人の意識革命も重要なファクターの一つとなっている。直感的な危機感からの個々の具体的な対応もそれぞれに有効であるが、問題の本質を客観的に理解した上での統括的な対処が今後ますます必要となるだろう。小学校、中学校等でも各教科で環境教育の取り入れが促進されており、身近な自然の観察などの手法で問題の認識や日常の行動を促している。
 科学は人間生活を豊かにしてきた一方、多くの環境問題の原因をも産み出してきており、その解決にも重要な役割を担っている。その中で、化学は人間を含めた物質と物質の相互作用を論じる分野でもあるため、問題の総体的把握には不可欠である。
 環境化学という視座から豊富なデータを集めて呈示することで、身近な物質や地球を構成する物質の個々の性質と相互の関わり合いの理解を、手助けできないだろうかと以前から考えている。それも単なる数式や数値データなどだけでなく、わかりやすい図・グラフィック(カット参照)で表現できればもっといいだろう。その際コンピュータは大きな力を発揮してくれる。若者の“理科離れ”が話題にもなっている中、化学の面白さを知ってもらうためにも、夢をもってこの仕事に取り組んでみたい。

 パソコン通信を始めて、その膨大な可能性の一端が見えてきたところである。通信ネットの化学関係のフォーラムにも参加し、『生活環境データベース』のことを雑談でアナウンスしたところ、多くの方から、データベースの重要性や構築の大変さ(「根気が第一」との励ましもあった)などについての反応があったほか、通信が極めて有効な武器になるだろうとのコメントもあり感謝している。さらに、そのフォーラムが、誰でも参加でき、多くの人が応えてくれる存在になるまにでは、初期の運営者達の「並大抵ではない苦労」があったことも知り、素直に実感している。電子出版の話題もあり、パソコン機種の違いによるデータの互換性の問題や画像データの扱い等が議論されていて、これは本研究推進上の問題点でもあるので、注目し続けたいと考えている。
 新潟県内独自のネットもいくつかあり、活発に活動している。今後勉強させてもらい、県内のパソコン通信の今後も視野に収め、本研究に関わりたいと思っている。
 昨年の化学ソフトウェア学会の記念講演は、電気通信大学の山崎昶氏により『データベースと化学と世間』という演題で行なわれた。懇親会でもいろいろ話しを聞かせて戴いたが、「データベースはまず自分が必要と思うものを作ること。そして必ずメンバーの中に批判者がいること」とのアドバイスもあった。今回の報告書を見て、多くのご意見が戴ければ幸いである。生活科学科内のスタッフの協力は勿論のこと、学外からのいろいろなご支援が大きな力になると考えている。

カット  分子モデリングソフトウェアによるDNA分子の表示例(水素原子は省略).左は CAMD-I plus(矢野米雄・本間善夫),右は MODRAST(中野英彦)による.分子データファイルは同一であり,原子座標という数値データをグラフィックにした例といえる.DNAは MOLS(笹田義夫)で組み立てた後に,ファイル変換した.
 この二重らせん構造は,自然科学の枠組みを越え,現代人にとって象徴的な意味を持つ情報の一つになってはいないだろうか.そして,この図が描かれるに至る歴史を振り返ると,少し考えただけでも以下の名前が思い浮かぶ;ドルトン,ブルネレスキ,ダ・ビンチ,レントゲン,ワトソン,クリック,チューリング,ケメニー,クルツ,ゲイツ,…….