●本稿は日本コンピュータ化学会年会2005秋季年会(2005/10/15-16,徳島大学蔵本キャンパス 長井記念ホール)におけるポスター発表の要旨に加筆し,同学会のご了解を得て転載したものです.
●リンクしている一部のコンテンツは,分子モデル表示用フリーウェアをインストールする必要があります(ダウンロード方法).
学会参加の記録を作成しました.

膜タンパク質のWeb教材集作成

広瀬可奈子1,○本間善夫1
1 県立新潟女子短期大学(〒950-8680 新潟県新潟市海老ヶ瀬471)

1. はじめに
 近年のバイオサイエンス・ライフサイエンス重視の流れもあり,高等学校理科でも「理科総合A」に『生物のつくる物質』,「化学II」に『生命と物質』が導入されるなど,化学分野でも生体分子を扱う機会が一層増えるものと思われる。本研究室ではこれまでに,Protein Data Bank(PDB)1)登録データを利用し,Webブラウザと分子表示プラグインのChime(MDL社)2)を用いて,3次元モデルをインタラクティブに参照できる生体高分子関連データ集を公開してきた3-5)。ここでは,シグナル伝達やイオンチャネルなど生体内で重要な働きをしている膜タンパク質(αヘリックス型およびβバレル型)の分子構造の詳細を学べる教材集を公開したので報告する。

2. 膜タンパク質のWeb教材データ集の作成
 生物の細胞膜を貫通するなどしている膜タンパク質6)には,αヘリックス構造では代表的な7回膜貫通タイプやβシート構造から成るβバレル型など,特徴的な貫通部分を有するものや,アンカー等により膜と一定の相互作用を示すものなど様々なタイプがある。特に膜貫通タイプは,脂質二分子膜の膜厚に相当する長さの疎水性部分を持つことで親和性を獲得し,その上で細胞内外の多様な情報伝達を担ったり水分子やイオンの能動輸送に関わるなど,生命活動の維持に不可欠な働きに即した構造を有しており,タンパク質の構造と性質の関係を学ぶ上で興味が尽きないものばかりである。
 そこで,αヘリックス型の膜貫通タンパク質PDBデータ集7)(図1が表示例)とβバレル型膜タンパク質データ集8)(図2)を作成し,前者はSOSUI WWW Server9)で判別される膜貫通部分,後者ではPDB1)のSequence Detailsページから参照できるProtein Dossier構造情報中のSS_PDB記載部分を抽出し,それぞれRasmolスクリプト記述によりボタンを押すだけで選択して表示変更を可能にした。これにより,バイオ関連の論文・雑誌等に出ているような説明用のカラー画像を容易に自作することができる。


図1 αヘリックス型膜貫通タンパク質PDBデータ集7)の表示例(2at9の場合;二次構造で膜貫通ヘリックスを濃色表示,リガンド等は空間充填表示).


図2 βバレル型膜タンパク質データ集8)の表示例(1thqの場合;濃色表示はβシート部分).

 また,著名なテキストエディタである秀丸10)を用い,それらの膜貫通部分の1文字アミノ酸配列情報から,3文字アミノ酸記号または疎水性インデックス値11)に変換した上で表形式のHTMLデータに変換する秀丸マクロを自作して12),様々な参考ページも作成して膜タンパク質理解の一助とした13)。このマクロは改変することによっていろいろな利用が可能である。
 例えば図3は,膜貫通タンパク質PDBデータ集7)に収載した各データの膜貫通部分の疎水性インデックス値の平均値を大きさ順に並べたものであり,最大値は1.892,最小値は1.194,最頻値は1.339であった。なお,値が1.425の1fqyは,2003年のノーベル化学賞14)を受賞したPeter Agre教授らによるアクアポリン(水チャネル)である。
 以上のコンテンツ群により,膜タンパク質について多彩な情報表示が可能な分子モデルによって視覚的に理解することができ,様々な図表データでその意味をより深く学べることから,多くの利用者に対して生体高分子に対する興味を喚起できるものと考える。


図3 SOSUI9)で求めたαヘリックス型膜貫通タンパク質7)の貫通部分の疎水性インデックスの平均値順に並べたグラフ.
参考文献・Webページ
 1) Protein Data Bank,http://www.rcsb.org/pdb/
 2) MDL,http://www.mdli.com/jp/index.jsp
 3) 本間善夫,日本コンピュータ化学会2002秋季年会講演要旨集,pp.68-69.
 4) 本間善夫,日本コンピュータ化学会2003秋季年会講演要旨集,pp.84-85.
 5) 陸美由紀・本間善夫,日本コンピュータ化学会2004秋季年会講演要旨集,講演番号1P06.
 6) 例えば,Bruce Alberts ほか著,中村桂子・松原謙一 監訳,「細胞の分子生物学 第4版」,pp.593-613,ニュートンプレス(2004).
 7) 本間善夫,http://www.ecosci.jp/pdb/tmp1.html
 8) 本間善夫,http://www.ecosci.jp/pdb/tmp_b1.html
 9) 美宅成樹,http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuiframe0.html
10) 斉藤秀夫 ほか,http://hide.maruo.co.jp/software/hidemaru.html
11) Kyte and Doolittle, J. Mol. Biol., 157, 105-132(1982) .
12) 本間善夫,http://www.ecosci.jp/pdb/hm/macro_g1.html
13) 本間善夫,http://www.ecosci.jp/pdb/r/
14) The Nobel Prize in Chemistry 2003,http://www.nobel.se/chemistry/laureates/2003/public.html


【補足】


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