2004年のWeb情報発信から
─ 鳥インフルエンザ,抗生物質,水俣病,P450 ─
本間善夫(県立新潟女子短期大学生活科学科生活科学専攻)
1. はじめに
 環境問題に関する科学コミュニケーションの中におけるWeb情報の位置付けについて,これまでに環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質),BSE(牛海綿状脳症)1),SARS(重症急性呼吸器症候群)2)を例に,情報発信の実践を通して考察を加えてきた。
 今回は,2004年1月以降に発生した国内の鳥インフルエンザ問題,同2月に環境省が普及啓発セミナー3)を催した水俣病問題,さらに学生の協力を得て作成した抗生物質データ集とシトクロムP450データ集について,コンテンツ公開後の経緯を報告する。
 話題性や専門度の異なる各ページへのアクセス状況の違いなどから,Web上に多様な科学情報を掲載することの有用性を述べる。
2. 鳥インフルエンザ問題
 アジアを中心に問題になっていた鳥インフルエンザが,2004年1月12日に山口県で国内としては79年ぶりに確認された後複数の府県でも発生し,感染経路,人への感染の可能性,BSEに続く食の危機などの視点で大きな関心を引き起こした。国ばかりでなく多くの各都道府県などでも情報収集と発信に迅速な対応を迫られた。
 H5N1型というウイルスの関する専門語がニュースで頻出したことを受け,1月15日にその名称のもとになるタンパク質構造や関連情報へのリンクを盛り込んだページを公開した4)。同ページへの省庁(農林水産省,環境省ほか),都道府県,市町村(京都府丹波町ほか)等からのアクセス状況の一部をWebに掲載しているが5),公的機関でもWebが有力な情報入手経路になっていることと,多様なキーワードによる検索を通じてのアクセスが多いことがわかった。また,前報2)のSARSと同様に問題の沈静化に従ってアクセス数は低減しているものの,引き続き再流行への備えが必要である。
3. 水俣病,抗生物質,シトクロムP450
 環境問題の原点とされる水俣病は,今でも真の解決に至っていないなど,その難しさという点でもあらゆる因子を含んでいて,今でも多くの書籍等で論じられ続け,決して忘れ去ってはならないものの一つである。情報はすでに多数出ていることから新規情報を公開する難しさを感じつつ,筆者の所属先が第二水俣病の現場に位置していることと,地元紙教育欄に環境問題に関する連載記事6)を執筆したのをきっかけに,本年4月26日にページを公開した7)。水俣病という単一語検索によるアクセスが多いが,他には第二水俣病,胎児性水俣病,原因などの検索語が見られる。極端に多いアクセスは望めないが,定常的な関心があることは確認できた。
 抗生物質に関するデータ集8)を公開(1月23日)したのは,耐性菌の問題が度々大きく取り上げられていることに動機付けられたもので,BSE,GMOなどいろいろな時事問題でノンフィクションや小説がしばしば良質な情報源になっている最近の状況を踏まえ,話題書「もう抗生物質では治らない」9)に出てくる多数の抗生物質名の索引・参考資料として作成を試みたものである。過去の検索では見つからない抗生物質名なども掲載していることから,プロバイダ経由ばかりでなく大学や企業からのアクセスも少なくない。高校「化学II」に「薬品の化学」の分野が設けられたこともあり,専門家と専門家以外の双方にとって関心の高い分野である。
 続いて,プロテオームなど近年のタンパク質に関する研究の進展と関心の高まりを受けて,どちらかと言えば専門家向けではあるが,薬物代謝など多くの生体反応に関与し,形状がユニークなおにぎり型で共通しているシトクロムP450ファミリー10)に関するデータ集11)は,一般にも生体分子への関心を高めるいい題材であると考え作成に取り組み,5月27日に公開を開始した。
 以上3コンテンツの公開日からの累積アクセス数を図1に示した。1日あたりの平均アクセス数は,多い順から抗生物質,水俣病,P450となっている。
 なお,検索サイトからのアクセスはGoogle,Yahoo!からが圧倒的に多いが,後者では2004年5月31日にサーチエンジンをGoogleから自社のYahoo! Search Technology12)に切り換えたため,各ページの利用状況がその影響を受けており,若干の対応を試みている。
 速報性の高いインターネット情報への依存度が高まり,専門家によるコンテンツへのリンクやわかりやすい解説書の紹介など,内容を吟味した上で複数の情報源を繋げていく活動が一層必要となっていると思われる。

 
【発表当日の資料例】
 
 
 
「鳥インフルエンザ情報」へのアクセス状況(リンク元の解析) 
「抗生物質リスト」へのアクセス状況(リンク元の解析) 
「水俣病」へのアクセス状況(リンク元の解析) 
「P450部分データ集〈PDB ID順〉」へのアクセス状況(リンク元の解析) 


いくつかのコンテンツ作成のきっかけとなったノンフィクションまたは小説仕立ての科学書の例
(科学コミュニケーションの手段としての“読み物”)
※2004/03/04〜2004/10/15
 
■:演者サイト内のページから  ■:外部ページからのリンクアクセス
   
 順位 
  リンク元,検索サイト/検索語 
  アクセス数 
  割合 / % 
 
   
 1
   (トップページ) 
  187 
  13.31 
 
   
 2
   (分子の学習帳) 
  63 
  4.48 
 
   
 3
   (BSEとプリオン) 
  53 
  3.77 
 
   
 4
   (抗生物質・耐性菌・院内感染) 
  43 
  3.06 
 
   
 5
   msn/鳥インフルエンザ 
  35 
  2.49 
 
   
 6
   鳥インフルエンザ情報・リンク集 
  
http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/2572/bird.html30 
  2.14 
 
   
 7
   (炭そ(炭疽)菌/NBCテロ) 
  23 
  1.64 
 
   
 8
   (SARSと抗ウイルス薬) 
  12 
  0.85 
 
   
 9
   yahoo/シアル酸 
  7 
  0.50 
 
   
 10
   yahoo/鳥インフルエンザ 画像 
  7 
  0.50 
 
   
 11
   yahoo/鳥インフルエンザ情報 
  
 ※約947件中21位(10/31)7 
  0.50 
 
   
 12
   yahoo/プロカルシトニン 
  6 
  0.43 
 
   
 13
   yahoo/鳥インフルエンザ タミフル 
  6 
  0.43 
 
   
 14
   yahoo/日本の鳥インフルエンザ 
  6 
  0.43 
 
   
 15
   (くらしと環境問題) 
  5 
  0.36 
 
   
 16
   yahoo/ヘマグルチニン 
  5 
  0.36 
 
   
 17
   yahoo/山口鳥インフルエンザ 
  5 
  0.36 
 
   
 18
   yahoo/鳥インフルエンザ 歴史 
  5 
  0.36 
 
   
 19
   応化掲示板II〔学生による運営〕 
  
http://taika-s49.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/imgboard.cgi5 
  0.36 
 
   
 その他
     
  895 
  63.70 
 
   
計
     
  1405 
  100.00 
 
検索語の分類 赤字:ウイルス構造・作用機序関連,薬品関連  ピンク字:その他
【参考】公的機関(省庁とその関連機関,都道府県,市町村)からの「鳥インフルエンザ情報」ページへのアクセス状況
※2004/01/24〜2004/10/15
 
■:演者サイト内のページから   ■:検索語が「抗生物質」だけのもの(計 1648件,16.69%)
   
 順位 
  リンク元,検索サイト/検索語 
  アクセス数 
  割合 / % 
 
   
 1
   yahoo/抗生物質 
  
 ※259,922件中10位(10/31)1766 
  17.89 
 
   
 2
   google/抗生物質 
  
 ※約168,000件中8位(10/31)873 
  8.84 
 
   
 3
   (抗生物質・耐性菌・院内感染) 
  818 
  8.29 
 
   
 4
   msn/抗生物質 
  499 
  5.05 
 
   
 5
   (抗生物質トップ) 
  353 
  3.58 
 
   
 6
   (抗生物質分子データ集リスト) 
  244 
  2.47 
 
   
 7
   (分子の学習帳) 
  105 
  1.06 
 
   
 8
   (トップページ) 
  72 
  0.73 
 
   
 9
   ocn/抗生物質 
  59 
  0.60 
 
   
 10
   nifty/抗生物質 
  46 
  0.47 
 
   
 11
   infoseek/抗生物質 
  45 
  0.46 
 
   
 12
   biglobe/抗生物質 
  44 
  0.45 
 
   
 13
   goo/抗生物質 
  43 
  0.44 
 
   
 14
   excite/抗生物質 
  39 
  0.40 
 
   
 15
   yahoo/ニューキノロン系 
  34 
  0.34 
 
   
 16
   (抗生物質履歴) 
  25 
  0.25 
 
   
 17
   yahoo/テトラサイクリン系 
  23 
  0.23 
 
   
 18
   yahoo/リネゾリド 
  22 
  0.22 
 
   
 19
   yahoo/オーレオマイシン 
  20 
  0.20 
 
   
 20
   yahoo/抗生物質 ジスロマック 
  18 
  0.18 
 
   
 その他
     
  4724 
  47.85 
 
   
計
     
  9872 
  100.00 
 
赤字:「抗生物質」以外の語
【参考】抗生物質データ集更新履歴
※2004/04/26〜2004/08/04
 
■:演者サイト内のページから  ■:検索語が「水俣病」だけのもの(計 425件,22.69%)
   
 順位 
  リンク元,検索サイト/検索語 
  アクセス数 
  割合 / % 
 
   
 1
   (トップページ) 
  338 
  18.05 
 
   
 2
   google/水俣病 
  281 
  15.00 
 
   
 3
   yahoo/水俣病 
  68 
  3.63 
 
   
 4
   yahoo/水俣病について 
  60 
  3.20 
 
   
 5
   (水俣病の化学/メチル水銀生成反応) 
  53 
  2.83 
 
   
 6
   yahoo/第二水俣病 
  41 
  2.19 
 
   
 7
   biglobe/水俣病 
  36 
  1.92 
 
   
 8
   yahoo/新潟水俣病 
  22 
  1.17 
 
   
 9
   goo/水俣病 
  12 
  0.64 
 
   
 10
   yahoo/水俣病 加害者 
  12 
  0.64 
 
   
 11
   (水俣病ページへのアクセス状況) 
  11 
  0.59 
 
   
 12
   google/胎児性水俣病 
  11 
  0.59 
 
   
 13
   (くらしと環境問題) 
  9 
  0.48 
 
   
 14
   google/新潟水俣病 
  9 
  0.48 
 
   
 15
   nifty/水俣病 
  9 
  0.48 
 
   
 16
   ocn/水俣病 
  8 
  0.43 
 
   
 17
   yahoo/水俣病 写真 
  8 
  0.43 
 
   
 18
   yahoo/水俣病の原因 
  8 
  0.43 
 
   
 19
   excite/水俣病 
  7 
  0.37 
 
   
 20
   yahoo/水俣病資料館 
  7 
  0.37 
 
   
 21
   google/水俣病 写真 
  6 
  0.32 
 
   
 22
   yahoo/新潟水俣病の原因 
  6 
  0.32 
 
   
 23
   yahoo/水俣病 原因 
  5 
  0.27 
 
   
 24
   (2時間即決環境問題) 
  4 
  0.21 
 
   
 25
   (環境問題掲示板) 
  4 
  0.21 
 
   
 26
   aol/水俣病 
  4 
  0.21 
 
   
 27
   yahoo/水俣病 差別 
  4 
  0.21 
 
   
 その他
     
  830 
  44.31 
 
   
計
     
  1873 
  100.00 
 
赤字:「水俣病」以外の語
【参考】検索サイトの検索語から見た水俣病ページに対するアクセス状況分析(リンク元解析結果100件集積時)
※2004/05/16〜2004/10/15
 
■:演者サイト内のページから  ■:外部ページからのリンクアクセス
   
 順位 
  リンク元,検索サイト/検索語 
  アクセス数 
  割合 / % 
 
   
 1
   (P450トップ) 
  165 
  16.89 
 
   
 2
   (トップページ) 
  134 
  13.72 
 
   
 3
   (分子の学習帳) 
  133 
  13.61 
 
   
 4
   (PDB部分データリスト) 
  66 
  6.76 
 
   
 5
   (ステロイドホルモンの生合成と代謝) 
  53 
  5.42 
 
   
 6
   (P450データ集フレーム版) 
  35 
  3.58 
 
   
 7
   (PDBデータのLigand結合部位) 
  29 
  2.97 
 
   
 8
   (PDBコンテンツ集メニュー) 
  23 
  2.35 
 
   
 9
   (バイオ関連トピックス) 
  22 
  2.25 
 
   
 10
   (抗生物質データ集トップ) 
  17 
  1.74 
 
   
 11
   (環境ホルモン情報) 
  16 
  1.64 
 
   
 12
   (P450データ集リスト) 
  12 
  1.23 
 
   
 13
   (今週の分子:シトクロムP450の例) 
  9 
  0.92 
 
   
 14
   google/P450(日本語のページ) 
  
 ※約8,540件中5位(10/31;4位がメニュー)6 
  0.61 
 
   
 15
   (分子関連掲示板) 
  5 
  0.51 
 
   
 その他
     
  252 
  25.79 
 
   
計
     
  977 
  100.00 
 
【参考】P450の I ヘリックス部分のアミノ酸残基の配列

(背景画像はTouchGraph GoogleBrowser V1.01による「生活環境化学の部屋」の位置付け;2004/09/10時点)